植物の挿し木は挿し穂内の栄養を使って発根・発芽することが知られています。
当然、貯蔵されている栄養が多いと成功する確率は高くなる傾向があるようです。
ですが、今回は細くて軽い挿し穂でも挿し木を成功させることができたので紹介します。
立派な穂木がないから、挿し木失敗しそう…
と思っている方も安心してください。
3節で2.6gしかない挿し穂や、3.94gの1節の挿し穂からでも挿し木は成功します!
初心者でも簡単に挑戦できるので、短かい物や細い穂木でも諦めずにチャレンジしてみてください!
成功率8/8の100%!最軽量2.6gで平均4.1gの挿し木
今回は『Excel』という枝と果皮・果肉が黄色という珍しい品種を手に入れたので、これから1節と2節以上の挿し穂を4つずつ作成しました。
上から順番に①〜⑨と番号を振りました。②だけが3節、④〜⑤は2節、⑥〜⑧は1節での挿し木です。
本当は②も2節にしたかったのですが、あまりにも細かったので3節になりました…
3節で2.6gだから2節だともっと軽くなっちゃうからね
①の頂芽に関しては展葉が発根に対して早く、挿し木の成功確率が低いと言われているのでダメ元で接木をしてみました。
専用の道具なしなので当然失敗しましたが、次はちゃんとやってみます!
ヒーターマットでの加温を行い、3月1日〜4月7日までの37日間で以下のように成長しました。
全て発根しており、程度の差はありますが植え替えが可能な状態に成長してくれました。
特に驚いたのは、最も発根が進んでいたのは最軽量の②の挿し穂でした。
貯めた栄養素の関係で、重い挿し穂の方が成長がいいと思ったけど違ったね!
数が少ないので検証としては不十分ですが、重さよりも節の数が大事なのかもしれません…
次は今回の挿し木の工夫したことを解説していきます。
各タイミングでの工夫について
挿し穂の切り出し
今回の挿し木で使う『Excel』の苗はこんな状態でした。枝の長さとしては80cmほどで根本はかなりしっかりとした太さになっています。
この苗は剪定した後、自動給水機能のある20Lほどのプランターに植えるので、少し高さを残したいというのが今回の状況です。
強剪定をすれば挿し穂が多く手に入るので迷いました
節の間隔が開いてきた根本の3節を残して、それより上を剪定します。
剪定が終わったら、挿し穂を切り出す前に食器用ハイターを使って殺菌します。
やり方は、
- 食器用ハイターを100倍に希釈する
- できた溶液に穂木を10秒くらい漬ける
- 濡れた状態の穂木を歯ブラシを使って全体を軽く磨く
- 水で洗い流して終了
という流れです。
実験的に1節挿しと2節挿しの比較をしてみたかったので、最低でも5cm程度の長さを目安に切り出しました。
「長さ5cm程度、半分は1節挿し」という指定で挿し穂を作成するとこのような形になりました。
1つだけ長さが足りず3節になってしまいましたが、捨てるのも勿体無いので1節挿しとの比較のバリエーションが増えたということで挿し木をしていきます。
挿し穂の加工
挿し穂を切り出したら、トップジンMペーストを使って切断面などの保護をしていきます。
上部と下部の切断面を保護するのは乾燥と雑菌の侵入を防止するためですが、今回は追加で地中に埋まる葉柄後にもコーティングを施します。
挿し木をしていると、この葉柄後からカビが発生することが多かったのでケアします
突き破れなくないけど、芽までコーティングしないように注意してね
これで乾燥とカビ対策はバッチリのはずです。これでダメなら湿度過多か、そもそも穂木の状態が良くなかったというしかないような気がします。
用土のブレンド
バーク堆肥によってかなり排水性が高い用土になっています。
今回は根が出ていない状態なのと、セルトレイで挿し木を行うので頻繁に灌水を行うので排水性重視の配合です。
湿らすのは簡単でも、乾燥させるのは時間に任せるしかないので、水捌けが最重要です
挿し木開始時の注意点
挿し穂、用土の準備が済んだらいよいよ挿し木を行います。
この時に注意したいのが挿し穂の角度です。こちらは挿し木して23日後の写真です。
下の段の1節挿しの芽は全て地中に埋まっています。
本当は1節の挿し穂は全部埋めようとしたのですが、引っかかったので断念
これが結果的に吉と出たんだよね
上の写真2枚が同じようなタイミングで挿し木した『Hardy Yellow』です。
この挿し木では2つ1節挿しで水平に埋めました。展葉も早く、順調に育っていたのですが葉が大きくなりかけたタイミングで枯れてしまいました。
片方の切断面の近くから根が出ていて、その反対側はドロドロに…
根が出る部位が2倍になるぶん、腐りやすい部位も2倍ということでした
この『Hardy Yellow』は1つの挿し穂から1節挿しを2株、2節挿しを1株作成しました。
結果は1節挿しは両方とも早く展葉し、枯死。
2節挿しは展葉することなく枯れてしまいました。
展葉・発根までいったのに残念だったね
最初の挿し木の段階では1節挿しでも上の切断面は地上に出しておいた方が無難なようです。
また、芽の位置は土が被さるくらいにすると土の保温効果によって展葉を促進できる効果が期待されます。
挿し穂の深さに関しては、展葉を早くしたい場合は芽を埋める。根をじっくり育てて展葉は遅くなっても構わないのであれば芽は埋めない。
このような使い分けをするとある程度、生育の傾向を操作することができそうです。
芽が地表にある上の段のは展葉はまちまちだけど、下の段の1節挿しは揃ってるね!
それが良いか悪いかは人の栽培状況によって変わりますが、1つの指標になりそうです
根が出ていないこのタイミングが、挿し穂の深さや向きを決める最後のポイントです。
植え替えてもダメージが無いうちにしっかりと確認しておきましょう。
結果:37日間の挿し木を終えて
ヒーターマットによる加温をして37日間の挿し木を行いました。
その結果はこちらのようになりました。
全て発根や発芽が確認されました。
下の段の⑥〜⑨は重さが違うのにそっくりで、あんまり違いがわからないね
それも含めて色々と傾向がわかってきました
今回の挿し木結果から1節挿しと2節挿しの違いをまとめると、
- 加温されると発芽が早くなる
- 展葉が早いものは節の数に限らず、根の量が少ない傾向にある
- 質量が大きいからといって成長が早いわけではない
考察:2節以上の方が軽くても根の量が多い理由
今回は合計で8本という数の少ない結果での検証なので、偶然という言葉で片付けられることが多分にある内容になっています。
ただ、せっかく検証を1回分行ったので、それを踏まえた上でこの結果を考察してみたいと思います。
芽が加温されると発芽が早くなる
このことについては「挿し木開始時の注意点」でも少し触れましたが、加温されている用土の中に芽を入れておくことで発芽・展葉が促進されました。
こういったヒーターマットを24時間通電で地温30℃をキープして管理しました。
温度によって成長が促進されたということに関しては、植物の中で行われている化学反応について注目すると理由が掴めてくる気がします。
そもそも植物は自分の体を作ったり、必要な成分を合成したりしていますが、それらは全て植物内で行われている化学反応によって成立しています。
つまり、植物が自分にとって必要な化学反応を起こせば起こすほど成長していきます
大きくなるには、芽とか根の素材をたくさん作る必要があるってことだね
この化学反応は、基本的には温度が高ければ高いほど早く進むことが知られています。
植物が元気でいられる範囲の温度なら、低いよりは高い方が成長が早くなります
光の当たる時間を一定にしたLED栽培でも、寒いと中々大きくならないもんね
今回の約30℃に加温していた『Excel』は37日で何本もの根が出てきましたが、同時期に室温(約20℃)で水挿しをしていた『Michurinska-10』は小さな1本の根が生えるまで58日間かかりました。
正確に測っていませんが、『桝井ドーフィン』も発根に2ヶ月近くかかっています
品種の差も当然ありますが、加温することでその部位の成長を促進できることになるでしょう。
ヒーターマットで用土を加温しているので、何もしなくても発根を促進している状態になっています。
早く展葉をさせたいなら芽の部分を埋めて温めることで、その部分の化学反応を促進させ、結果的に発芽・展葉を促すことにつながってくるように考えられます。
狙いに応じて芽を温めるかどうかを決めると良さそうだね
展葉が早いものは節の数に限らず、根の量が少ない傾向にある
その一方で、地中に埋まることで加温され、早く展葉した1節挿しの株は根の量があまり多くありませんでした。
光合成が早くできれば良い結果になると思ったけど、ちょっと違ったね
おそらく、植物が1日にできる化学反応には限界があり、限られた栄養素やエネルギーの中で根も葉も作ろうとして、どちらも中途半端になってしまった結果ではないかと考えられます。
あくまでも37日間の挿し木の中で、という話でこれ以降の成長には影響があるかもしれません
逆に展葉が遅い②と③の株に関しては、最も根の量が多く、ほぼ根鉢が出来上がってる状態でした。
これは他の株が葉を作ることに回していた栄養やエネルギーを、根を作ることに集中させていたからではないかと考えられます。
そのため、展葉が素早くできなかった分の労力を根の成長を集中させたことで根がたくさん作られたと考えられます。
質量が大きいからといって成長が早いわけではない
挿し穂の重さが大きいほど、貯蔵された栄養素も多くなるので、植物の成長に有利に働くと思っていましたが、37日間の範囲では、質量順に生育が早いというような結果は得られませんでした。
結果的には最も重い⑤の株が一番成長が遅いという結果です
また、最大で25%ほど重さが違う1節挿しでも、ほぼ違いがなく成長しています。
もしかしたら挿し木の初期の段階では、必要最低限の重さ(栄養素)さえあれば挿し木は成功するようになっているのかもしれません。
そうなると、2.6gでも十分な発根と展葉まで持って行けるってことだね
余っている栄養素に関しては、この後の生育で効果を発揮する場面が出てくる可能性があります。
栄養素の量 ≒ 体力という認識だと、最初の段階ではあまり関係がなくても納得ですね
どこかで成長が止まるタイミングがあるけど、軽い枝だとそれが早くくるのかもね
最も重い挿し穂が最も生育が悪かった理由ですが、長さが関係しているのかもしれません。
⑤は他の挿し穂に比べて倍近く長いので、枝の中の化学物質がうまく移動できなかったり、頂芽が加温されている土から離れているので、温度が低くかったりと影響があったことが考えられます。
今度は、同じ重さで長さが違う挿し穂で実験すると何かが分かるかもしれません
まとめ:軽くても、1節でも、挿し木はできます!
3節で2.6gしかない挿し穂や、3.94gの1節の挿し穂からでも挿し木を成功させることができました。
37日間の挿し木の後、この記事作成段階では更に30日以上が経過していますが、どれも枯れることなく成長を続けています。
挿し木の成功には、いかに「発根」と「展葉」の2つのハードルを乗り越えるかが問題となってきます。
最も軽い2.6gの挿し穂は、挿し木から1年間育てた株の先端部なので、お世辞にも立派とは言えません。
そんな細い枝からでも、しっかりとした根が出てきて、倍近くの重さを持つどっしりとした他の挿し穂からの株と比べても遜色なく成長しています。
今回の結果から重さだけで考えれば3gほどあれば、挿し木を行えるレベルの重さなので、細くても軽くても諦めずに挿し木にトライしてみてください!
コメント
こちらの挿し木の展葉後の経過はどうなったのでしょうか?
小さい穂木がその後、一般的な挿し木と同じように鉢増しなどをしてどこまで成長したのかが気になりました。展葉後の1年成長記録のような記事があれば是非見てみたいです。
コメントありがとうございます!最終的にどの程度大きくなったかの記録をしてありますので次の記事としてまとめてみたいと思います。
この時の株が現在栽培している約20品種内では7番目(656㎤)に大きく成長したので、1節の挿し木でも遜色なく成長してくれていると思います。
1〜5番目がどの程度成長したかは以下のURLにまとめてあります。
https://container-lab.online/ranking_2023_2/