この1年間で100本以上のイチジクの挿し木をしてきました。
イチジクの挿し木をしたいけど、なんだかんだ手間がかかって面倒なんだよなぁ…
通算の成功率低いし…
と思っている私でも簡単に挿し木ができる方法を見つけましたので紹介します。
加工や手間は一切不要で、簡単にイチジクの挿し木ができるので一度に何本も挿し木をする場合は非常にオススメです。
こんなにすごかった!「セルトレイ挿し」のメリット
「セルトレイ挿し」とは、イチジクの挿し木をする際に、セルトレイと呼ばれるプラスチック製の器を使って行います。
この方法は、従来のプラカップや水挿し、袋挿しなどの方法よりも簡単で、失敗しにくい方法です。
セルトレイは、セルと呼ばれるそれぞれが独立した小さな区画があり、1つ1つのセルに排水溝が付いています。
この容器を使って挿し木をすることで、こんなメリットがありました。
- 準備が超簡単!挿し木がすぐできる
- 格安&省資源!使う土の量が少なくエコな上に、水分管理が簡単
- 底面給水トレイとヒーターマットで、排水性&成長速度アップ
挿し木容器を加工する必要がなく、土も少量。
セルトレイ自体も非常に安価なので、値段的にも資材的にも気楽に始められるという点も魅力だと思います。
セルトレイ挿しを30株やりましたが、成功率は驚異の100%でした!
すごい!あの時のリベンジ成功だね!
これから、各項目の具体的なポイントを紹介していきます。
爆速で挿し木開始!〜従来の方法との比較〜
この「セルトレイ挿し」の最初に実感するメリットは準備が簡単ということです。
以前行ったプラカップを用いた挿し木では以下のような手順でした。
- 使用材料の用意
挿し穂の調整、用土の準備、容器の確保
- 容器の加工
カッターやハンダゴテなどで排水溝を追加
- 挿し木開始
プラカップは排水溝がないので、各自で加工する必要が出てきます。
前回の挿し木で作ったプラカップには、錐で底面と側面に穴を8個とハサミを使ってスリットを追加しました。
書くと工程は3つだけど、2つ目の容器の加工が結構時間がかかるんだよね…
1個1分とすると、30個作ると30分もかかっちゃうね
さっきやったら、たった1個作るのに1分30秒かかった…
今までのプラカップ挿しでは30個の容器を用意するためには、それなりの時間(45分ほど)を必要としますが、セルトレイ挿しでは次のようになります。
- 使用材料の用意
挿し穂の調整、用土の準備、容器の確保
- 挿し木開始
加工しないので、加工時間が45分→0分に。
挿し穂と土があれば、あとは土を入れるだけというお手軽さです
爆速!
セルトレイではすでに排水溝が空いているので、底面給水トレイに載せて管理したところ特に問題なく挿し木を行うことができました。
もし、排水能力を向上したい場合でも、プラカップよりも柔らかい素材なのでハサミで簡単にスリットを追加することができます。
排水溝にハサミを入れればすぐにスリットを追加できました(所要時間:1セルあたり2秒)
もう穂木がないのに、時間を測るためだけに1枚加工したんだね…
格安&省資源!手軽さと失敗リスクの低さを両立!
セルトレイはホームセンターで販売されており、セット販売が多いですが、1枚あたりに換算すると数十円程度で購入することが可能です。
私が使っているのはこの25穴のセルトレイです。
この25穴タイプがセルの大きさのバランスが良く使いやすいと思います。
2023/04/21の段階では10枚組で296円だったので、1枚あたり29.6円と非常に安いです。
このトレイ1枚で25個の挿し木ができるので、1株あたり1.2円という超コスパになります。
セルは49×49×51mmのサイズで横から見ると台形のような形をしているので多少誤差はありますが、体積は約0.1L程度となっています。
体積が小さいと入る土の量が少ないということになります。一見すると悪いことのように思えますが、3つの良い点があります。
①:必要な土の量が少ない
土に挿し木をする上でどうしても外せないのが用土です。
人によって鹿沼土や赤玉土など使うものは異なりますが、どうしても何らかの培地が必要になります。
そのため、容器の体積が大きいとどうしても用意する用土の量が多くなり、仮に失敗した際には廃棄する量も増えてしまうことになります。
500mLくらいのプラカップを使って挿し木した時は、失敗した土を捨てるのが面倒だったな…
それは失敗してるってことだから、二重に悲しいね
容器に入る用土が少ないほど、必要な量も減るので効率よく挿し木をすることができます。
②:保水量が少ないから、根腐れしにくい
入る土の量が少ないということは、保水量も当然少ないということになります。
水分というものは植物栽培には重要な要素ですが、多すぎても少なすぎてもいい結果にはなりません。特に挿し木においては非常に重要です。
根が無いか少ない状態なので、水分が多すぎるといつまで経っても水分が抜けずに根腐れしたり、少なすぎると枯れてしまったりします。
水分を与えるのは簡単ですが、水分を抜くのは難しく、基本的には待つしかありません
保水量が少ないと、よっぽど高頻度に灌水をするか、密閉して水分が蒸発しにくい環境にしない限りは数日で自然乾燥していくので、植物にとって良い環境を維持しやすいということになります。
プラカップだと用土の種類にもよりますが、容器が深いので中々水分が蒸発していきません。次のグラフは以前に行った実験の時のものになります。
1週間に1度の灌水だと培養土以外は水分があまり減っていかないので、ずっと湿度が高い状態となり雑菌が繁殖しやすい環境ということが言えると思います。
水の保水量としては400mL程度の用土を使ったので体積の10〜20%ほどになると考えられます。
セルトレイの場合は約100mLなので、保水量は10〜20gとなるので用度によって変わりますが常温にぽいて4〜7日程度で完全に乾燥する計算になります。
以上のことから、セルトレイだと1週間もあればほぼ水分が飛んでしまうくらいしか水を含んでいないので、湿度が高い状態が続きにくいので根腐れも起こりにくくなります。
乾き具合を見ながらなので、多少誤差はありますが週に2回ほどの間隔で灌水をしていました
また、週に2回という頻度で灌水できることによって、用土ないに繁殖しかけた雑菌を洗い出すことができるようになります。
多湿状態が短い環境の中で、さらに洗い流しで根腐れ対策をしているので根腐れで枯らしまくったという不名誉な実績を持つ私にとっては理想的な栽培環境なのかもしれません。
今までにない小さくせ浅い容器はやりやすいのかもね
③:早く根鉢を形成できる
セルが小さく独立しているので、挿し木が成功して発根すると、すぐに根が壁にあたることになります。
普通であれば狭くスリットなどが無い鉢だと根が十分に張れず、ぐるぐると鉢内を根が回るサークリングという現象が発生して困るところです。
しかし、セルトレイ挿しは敢えてサークリングを早期に発生させ根鉢を早期に形成することで植え替えまでの時間を短縮するという目的があります。
これによって、セルトレイから株を取り出しても用土がボロボロと崩れることが起こりにくく、根を痛めずに鉢上げができるようになります。
500mLのプラカップで根鉢を作ろうとすると何ヶ月もかかりますが、加温したセルトレイなら5週間ほどで最低限植え替えられる程度には育ちました
時間に余裕があればもう1週間くらい育てるといいかもね
また、プラカップはカップに根が張り付いて植え替える時に根ちぎれてしまうことがよくありましたが、セルトレイはスルッと抜けるので根が切れにくく、株へのダメージも最小限で済むのも魅力です。
湿度・温度管理が簡単で、複数の株をらくらく管理
セルトレイ挿しをする上でオススメなのは、ホームセンターなどで買える底面給水トレイを使うことです。
この写真のように底の部分に溝がある物を使っていますが、こういったトレイを使うことで栽培上で有利な点が3つあります。
- セルトレイの排水性向上
- 加温した際に蒸れすぎを防止
- 灌水などがセルトレイを動かさずにできる
まず1つ目の利点からですが、トレイに溝があるおかげでセルトレイの排水溝から効率よく排水を促すことができるようになるので、過湿状態を防ぐことがより簡単になります。
平面な容器だと排水溝が塞がって上手く排水できないので、トレイの形状に注意が必要です
2つ目の利点もトレイの溝があることによって生まれます。
セルトレイと底面給水トレイの間に適度な隙間ができます。ヒーターマットで加温をする際に温まった空気が溜まり続けることがないので、温度が上がりすぎないという効果があります。
トレイが緩衝材になって、全体をジワジワと温められるようになるよ
最後の3つ目は何でもないことのように思えますが、このトレイごと移動や灌水が行えるので、セルトレイだけを持ち上げることがなくなります。
セルトレイは入る土の量が少ないと言っても、たくさんの挿し木をしていると結構な重さになってきます。
灌水のためにセルトレイを持ち上げると、重みでセルトレイが歪んで、成長途中の根に負荷がかかって折れたりしてしまうことが考えられます。
挿し木は根を成長させることが何よりも重要なので、根の負担になることは避けるべきです。
鉢上げをする時に危うく手を滑らせて落としてしまうところでした。
セルトレイは持つ部分が狭いので、セルトレイだけを動かすことがないようにしましょう…
また、灌水後に底面給水トレイの片方を少し傾けることで簡単に水切りをすることもできるので、管理が非常に楽になるのでオススメです。
また、底面給水トレイにセルトレイは栽培で2枚と2列分を並べることができるので、最大で60個の挿し木を同時に行うことが可能なので大量挿し木にも効果を発揮すると思います。
セルトレイ挿しの具体的な手順と注意点
ここからはセルトレイ挿しの詳細な流れと各タイミングでの注意点をまとめていきます。
- 使用材料の用意
挿し穂の調整、用土の準備、容器の確保
- 挿し木開始
前の項目で上のような簡単な流れをまとめましたが、セルトレイ挿しならではの注意点があるので、
- 準備
- 挿し木
- その後の管理方法
の3段階で解説をしていきます。
材料・挿し穂の準備
まずは使用するセルトレイ、底面給水トレイと用土を用意しましょう。
私は全てホームセンターで購入し、2つのトレイに関してはそのまま利用しています。また、用土は次の配合でブレンドしたものを用意しました。
次に挿し穂の準備をしていきます。
セルトレイは25穴タイプだと深さ5cmと浅いので、なるべく短めの挿し穂が最適だと思います。
挿し穂が長いと外にはみ出る部分が多くなってしまうので、グラグラと動いて根を痛める可能性が高いです。
1回目のセルトレイ挿しは長さのことを考えていなかったので、危ない部分が少しありました…
必要な準備が整ったらいよいよ挿し木です。
セルトレイへの植え込み
いよいよ挿し木をしていきますが、土を入れる前に重要なことがあるので確認します。
「挿し穂がこれからどう成長していくのか」ということです。
この見通しを立てることで、挿し穂の向きや深さが決まってきます
ちなみに適当に挿し木するとこうなります
芽が枝にぶつかってる…
ぐわああああーーーーッ‼︎
具体的には芽の向きと、挿し穂をどのくらい埋めるのかということになります。
高さを決める際に注意しておきたいのが、セルトレイの底面と挿し穂が直接触れないようにするということです。
上の画像はプラカップ挿しの時に考えたものですが、セルトレイでも同様の状況になることが予想されます。底面に近いほど水分が乾きにくいので過湿状態になりやすいです。
いかに乾きやすいセルトレイでも、注意するに越したことはないでしょう。1cm程度は下に土を置いておきたいところです
挿し穂の向きと高さが決まったら、過湿対策に底面に用土を敷いてから、挿し穂の向きや高さを確認して、隙間を埋めるように用土を入れていきましょう。
入れる用土の量が少ないので、この作業自体はすぐに終わると思います。
用土が入れ終わったら、たっぷりと灌水を行ってから土を少し押して挿し穂がグラつかないようにしたら完成です。
隙間が空いているのは品種ごとに区切るためなので、特に気にしなければ詰めた方が管理は楽になります。
管理方法
最後に管理方法についてを紹介します。
最初のセルトレイ挿しは2023年の2月〜3月までの期間に室内で行ったので、昼間は18℃ほどになりますが、夜間は冷え込んで10℃を下回る環境でした。
そのため、ヒーターマットを2枚使って加温しながら管理しました。
1枚は底面給水トレイの下に敷いて常時通電させていました。
もう1枚は夜間の防寒用で、冷え込み対策として底面給水トレイの上に折りたたみコンテナを被せて、その上にヒーターマットと底面給水トレイを乗せて保温しました。
24時間通電しても通気性があるので、昼夜問わず地温30℃程度を維持してくれました
上の画像(右)のように夜間は折りたたみコンテナを被せると、中の様子が少し見えてよかったです。
最初は真っ黒な45型のNVボックスを使っていましたが、取り忘れても日が入る透明タイプのものが安心だと思います
加温は24時間で、夕方から朝にかけてヒーターマットを乗せたコンテナを被せて保温すると、大体1週間に1〜2回の灌水頻度になりました。
挿し木して40日程あれば植え替えができる程度に大きくなってくれました。
まとめ:成功させるためのポイント
最後に、栽培時の管理で注意したい点をまとめていきます。
水やりの頻度と方法
成功のコツとしては「乾いてきたら水を与える」という話をよく聞きますが、どんな状態の時が乾いてきたのかが分かりにくく、感覚や経験則で話が終わりがちです。
先ほどのフレーズに1つ付け足すことで理解が深まると思うので補足すると、「地中が乾いてきたら水を与える」ということです。
地表の部分は空気と接しているので比較的すぐに乾きやすいですが、植物が根を出すのは地中なので、乾いているかどうかは地中を見てみないといけません。
あくまでも地中の水分量が大事ってことだね
私は土を少し掘ってみて乾燥の度合いを確認しました。
1cm程指で掘って、あまり湿り気を感じずに土がパラパラする水のやり時です。
湿っていると掘りにくく、1cmでも抵抗をかなり感じるのですぐに分かると思います
温度管理について 〜サーモスタットを使うかどうか〜
私はヒーターマットの加温能力がどの程度のものなのかが分からなかったので、安全のためにサーモスタットを購入しました。
プローブ(計測器)によって好きな場所の温度を計測し、設定温度以下の条件だと電源をオンにして、設定温度以上になると電源を自動的にオフにしてくれるという商品です。
結論としては、冬季のセルトレイ挿しにおいてはヒーターマットを常時つけっぱなしにしておいても、暑くなりすぎるということがありませんでした。
現在温度も表示されるので、モニターとしての使い方がほとんどだったね
もし急に暖かくなる日があった場合には活躍する機会もあるので、心配であれば導入しておいて損はないと思います。
また、春や秋などの季節に挿し木をする場合では必要になるタイミングが複数あるかもしれません。
鉢上げをいつするか
最後のポイントはどのタイミングで鉢上げをするのか、ということです。
品種ごとや個体ごとに発根のしやすさが異なるので一概に〇〇日とは言えませんが、2回の挿し木をして2回とも40日程度で根鉢がかなりできていました。
鉢上げは時期が早いと植え替え時に根が切れてしまうリスクが高いので、どちらかというと遅いくらいがちょうど良いと思います。
上の画像のように同じ品種・枝の挿し木なのに、根の成長には差があります。
最も状態がいいのは②の株ですが、もう1週間くらい挿し木をして根が絡み合うくらいまで待っても良かったと思います。
植え替えて2週間が経っても枯れていないので大丈夫そうですが、次回は45日間を目安にして挿し木をしたいと考えています
最後に
今回は2回のセルトレイ挿しをして、30本中30本の成功率でした。
だから「セルトレイ挿しはすごい!最高!」というわけではなく、「ミスが起こりにくい条件を用意できる挿し木方法」なのだと思っています。
親株から剪定したものをその日のうちに挿し木しているので、鮮度が抜群なので成功率が高いのは間違いありません。
この鮮度が良くて失敗しにくい挿し穂に対して、そのポテンシャルを損なわずに管理できたと思うので、一度にまとまった数に挿し木をしたい場合には選択肢の1つとして検討して貰えばありがたいと思います。
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